日弁連会長選挙にむけてーポストコロナの弁護士業界の行く末
2022年2月4日、日本弁護士連合会の会長選挙が行われます。
立候補されている先生方の選挙公約を拝見して、僭越ながら物足りなく感じざるを得ないのが、弁護士業界のDX化についての議論の少なさです。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大を背景に、企業はもとより官公庁も、DX化一辺倒のきらいすらあります。
他方で、我々弁護士業界ではDX化は遅々として進んではおりません。
いわゆる4大、あるいはそれに次ぐ準大手事務所はいざ知らず、少なくとも、いわゆるマチ弁には全くその雰囲気はない・・・
しかし、このままでよいのでしょうか。
司法制度改革のもと弁護士数を増員してきたにもかかわらず、総体としての弁護士の仕事の量はさほど増えてはいないとも言われています。
他方で、日本は既に人口減少局面にあり、将来において仕事の量は減りこそすれ、増えることは考えにくい。
そうであれば、仕事を効率化し、収益力を高める必要があり、DX化を強力に推し進めることはその突破口となりうるわけですが、会長選挙でそのことが議論されるわけではない・・・
ポストコロナに向けて、弁護士業界も急激な変化に見舞われることが想定されます。
理念的な公約も重要ではありますが、このポストコロナ時代に候補者が日弁連会長となることの意義、ポストコロナに向けて業界の未来をどのように考えているのか、その点こそが聞きたかった部分とも言え、消化不良の感は否めません。
個人的には、ここ数年の司法試験の受験者数の減少が気になっております。
業界の活力は「人」なくしてはあり得ません。
むやみに倍率が高くなるのも考えものですが、他方で、多くの若者が法曹を目指すという土台があるからこそ、その中から優秀な法曹が産まれるというのもまた事実だと思います。
弁護士の魅力というものが薄れてしまっているように見えるのではないか、気が気ではありません。
仮に若者たちから見て弁護士の魅力が薄れていっているのだとしたら、この業界があまりに旧態依然とし、成長への期待が持てないからというほかないでしょう。
私を含め弁護士のデジタルスキルの低さはその証左ではないかと思われます。
DX化という観点からは、日本全体が世界から周回遅れだと言われている中で、そうした日本の中でも弁護士業界はさらに周回遅れとなりつつあるのではないでしょうか。
問題は、そのことに気付いていない、あるいは、気付いているが、自分はその波から逃げ切れるから変わらなくともよい、と考えている弁護士があまりに多いように見えることです。
↑↑↑2022年1月31日の日経新聞(朝刊)の記事ですが、日本は、デジタルスキルを持つ人の比率が低く、他方で、自動化で代替される雇用の比率が高いとされ、「リスキリング(学び直し)」が急務とされています。
そして、様々な職種の中でも、我々のような法律事務職は、自動化で代替される割合がさらに多い。
我々マチ弁の仕事内容を考えてみますと、例えば、交通事故や離婚、自己破産といったある程度定型的に処理できる業務は容易に自動化されることが見通せますし、契約書のチェックなどは既にAIに代替されつつあります。
つまり、弁護士業界は、この「リスキリング」が急務な職種のド真ん中ではないかと考えられるのです。
そのような中で、2030年にどのようなことが起こっているのかと想像してみますと、
①ある程度定型的に処理できる業務を大量に請け負いAIを活用して効率的に処理する事務所群、
②定型的な処理に馴染まない比較的高度な法的問題を扱うことで自働化の波に呑まれまいとする事務所群、
③2022年現在とほぼ変わらない手法で業務を行う事務所群、
に三極化するのではないかと思われます。
ここで、なぜこれまで弁護士が高い平均年収を誇ってきたか、ということを考えますと、
⑴顧客との圧倒的な知識格差(知識の非対称性)による仕事の高付加価値性、
⑵司法試験合格という参入障壁による弁護士の希少性、
にあったのではないかと思われます。
それが、司法制度改革によって、まずは弁護士の数が増え、仕事の単価は下落せざるを得ず、⑵の部分は崩れました。
そして、昨今のインターネットの普及、さらにAIの普及により、⑴の圧倒的な知識格差の点も失われようとしています。
また、将来確実に訪れる人口減少により仕事の総量は減少し、他方でAIの普及等により弁護士一人一人が処理できる案件数が増えれば、確実に弁護士同士の競争は激化します。
そうしますと、単価の下落の傾向はより一層強まらざるを得ないはずであり、普通に考えますと、上記③の事務所群は低所得に甘んじざるを得なくなってしまいます。
他方で、そうした単価の下落をDX化で補えるのではないか、すなわち、効率化アップにより仕事量を増やすことで収入確保の途を模索するのが上記①の事務所群です。
このように考えますと、おそらく弁護士の中で多数派になるであろう上記③の事務所群は、現在と同様の収入を確保するためには「リスキリング」を行い、①や②の事務所群に変貌を遂げ、競争を生き抜くすべを身に付ける必要がある。
今まさに、こうした転換点にあるにもかかわらず、会長選挙においてそうした議論がフォーカスされていないことは残念というほかありません(各弁護士が責任をもって研鑽すべきだと言われればそれまでですが)。
以上の通り、弁護士であるというだけである程度の収入が確保できた時代は完全に終わり、ポストコロナ時代は弁護士同士が同業他社として顧客を奪い合う時代となるものと思われます。
これまでは、弁護士同士は競合でありつつも、弁護士ギルドの一員としてどこか仲間意識が残っていたわけですが、そうしたある種牧歌的な時代は残念ながら終わってしまったのかもしれません。
こうした時代の到来は、およそ同業他社との競争とは縁のなかった弁護士業界にとっては辛いものかもしれませんが、顧客目線では間違いなく良いことと言える気がします(過当競争にさえならず、適切な競争の範囲であれば、仕事のクオリティはむしろ高まり、クオリティの低い弁護士は淘汰されます)。
このように、各弁護士が「リスキリング」をしつつ、適切な競争の中切磋琢磨していけば、業界全体としては収益性は保たれ、業界としてはそう悪くない未来が到来すると思われます。
他方で、各弁護士が、はるか昔に築かれた参入障壁という既得権を盾に、旧態依然とした仕事の仕方にしがみつき、活力を失っていくとしたら、弁護士業界も斜陽となるほかないのでしょう。