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2020-06-10

弁護士の本棚 vol.02

こんにちは、齋藤です。

第二回目の今回は、小説をご紹介させて頂きます。

突然ですが、時代小説が好きです。

時代小説というと、中学生の頃、藤沢周平の「秘太刀馬の骨」を理化の授業中にこっそり読んでいたところ、先生に見つかり、本を取り上げられ、こっぴどく叱られたことがいまだに思い出されます。
職員室に呼び出された際、先生に、面白いので読み終わったら貸しますよ、と言いたいところをグッとこらえた記憶まで残っています。

余談ですが、30歳を過ぎて弁護士として学校で出張授業をしたりするようになり、学生時代、先生方がいかに苦労しながら、一生懸命授業をされていたかを遅まきながら理解できるようになりました。

そうしたご苦労も顧みず、なんと勝手な振舞いをしてしまっていたことか、思い出すだに恥ずかしく、消え入りたくなる思いであります。
ただ、男子校でしたので、ナメた態度には容赦なく鉄拳制裁が待っていました(あくまで当時の話です)。


それはさておき、藤沢周平の深みのある人物描写や温かみのあるストーリーは、ささくれだった人の心を包み込み、ほっこりとした気分にさせてくれる力があります。また、池波正太郎、山本周五郎や司馬遼太郎、吉川英治などいずれの作家も名作ぞろい(これらの作家についてもいずれ触れていきたいと思います。)です。

しかし、残念ながらいずれも故人であり、当然新作の発表は期待できません。
 
そんな中、今回は、これらの巨匠の作品に並ぶとも劣らない作品をご紹介させて頂きます。

「村上海賊の娘 (一)~(四)」
(和田竜 新潮文庫 2016年)

当時なにかと話題の本でしたので、文庫版を予約して図書館で(一)巻を借りたのですが、これは面白いと思い続きを借りようとしたところ十数人待ちとなっていたため、待ちきれずに続きを一気買いしてしまいました。


天正四年(1576年)、天下統一を目指す織田信長が次に狙いを定めたのは石山本願寺の攻略でした。
石山本願寺を包囲され、籠城を余儀なくされた本願寺顕如らは、毛利家に兵糧十万石の海上輸送を申し入れます。
織田信長につくか、本願寺(一向宗)を助けるか、毛利家が出した答えは本願寺の救援でした。

しかし、兵糧十万石の海上輸送など毛利家単独では不可能です。
そこで、毛利家が白羽の矢を立てたのが、戦国時代に瀬戸内海一帯を根城に栄華を極めた海賊衆、村上海賊でした。
村上海賊の党首たる村上武吉の娘・村上景(きょう)を主人公に、石山本願寺周辺に築かれた砦をめぐる攻防戦から、ライマックスの織田軍・毛利軍が難波海(大阪湾)で激突する木津川合戦までを一気に描き切ります。

キャラクター描写

キャラクター描写

(四)巻巻末の解説を読みますと、どうやら、村上武吉に娘がいたことは史実のようですが、系図には「女」と記載されているのみで、名は不明であり、「景」という名は著者の創作のようです。

景のキャラクター設定は、

「身の丈6尺(約180センチ)におよびそうな長身」、「長身から伸びた脚と腕は過剰なほどに長く、これもまた長い首には小さな頭が乗っていた。その均整の不具合は、思わず目を留めてしまうほどである。
もっとも異様なのはその容貌であった。
海風に逆巻く乱髪の下で見え隠れする顔は細く、鼻梁は鷹の嘴のごとく鋭く、そして高かった。
その目は眦が裂けたかと思うほど巨大で、眉は両の眼に迫り、眦とともに怒ったように吊り上がっている。
口は大きく、唇は分厚く、不敵に上がった口角は鬼がほほ笑んだようであった。」

と描写されています。
そして、「醜女で悍婦」とされ、しかもそこいらの男よりよほど腕が立つため、二十歳になっても嫁の貰い手がない、というものです。

この時代の美人とは、「顔はのっぺりとして」「目は利剣で切ったかのように細く、おちょぼ口で」、「顔の彫が浅く、太り気味の女」であったので、「高き鼻、大きく見開いた眼、長き首と手足、小さき頭、ことごとく南蛮人」(ポルトガル人)のような景は、当時は「大変な醜女」とされました。

景自身も、美人でないことを気にしており、他方、海賊家に輿入れし、好いた男と一緒に戦に出たいという夢を持っていました。
そのため、異国人が集まり南蛮人にも慣れ、異国人の女子を美しいと思う者も多くいるという泉州、堺の地に向かい、泉州の海賊衆に輿入れしようと考え、瀬戸内から石山本願寺に向かう一向宗の門徒の船に上乗りし、難波海に向かいます。

外国人の親をルーツにもつ女優さんが銀幕を席巻している現在の日本では、主人公はモデル体型の美女とされるはずで、作中でも、景は、泉州の海賊衆には、「えらい別嬪」だと褒めそやされます。

このように、物語を読み進めていくうちに、「悍婦」か否かはともかく、「醜女」というキャラ付けはだんだんと薄れていきます。

他方、景が難波に向かう動機や後先を考えない振舞いは、この時代の武家の人間にしてはあまりに軽率のようにも思えますが、そこは、エンタメ性を重視する著者ですので、本作品にもコミカル要素は多々散りばめられており、そうした味付けの一つと思えば、さして気にせず読み進められます。

「石山軍記」、「信長公記」、「武辺咄聞書」、「能島家根本覚書」など、史料をこれでもかと引用して時代考証について書き込むスタイル(いかに多くの史料・資料にあたっているかは、(四)巻巻末の主要参考文献からも見て取れます)は、司馬遼太郎を思わせます。

しかし、司馬遼太郎が、時に話の流れを無視してでも冗長とも思われるような説明書きを多用した(たとえば、「坂の上の雲」や「翔ぶが如く」では、その傾向が顕著であり、さながら評論文のようで、その部分を読むのに飽きて読むのをやめた読者は多いと思われます。
他方、「梟の城」、「燃えよ剣」、「新撰組血風録」、「竜馬がゆく」などは、純粋な小説として書かれており、読みやすいです。)のに対し、著者の説明書きはあくまで物語の流れを妨げるものではなく、むしろ、小説に格調を与えるものと言えます。

また、そのように史料を引用するタイプの時代小説にありがちな堅苦しさは、キャラクターのコミカルな感情描写や話自体のエンターテインメント性で全く感じられず、会話中心に話が展開するため、非常に読みやすく仕上がっています。

そして、例えば、

「武将自ら料理をするのはさほど珍しいことではない。」「当時は貴人どころか一国の主が包丁を握る例もあり、関ヶ原合戦でも活躍した肥後国熊本藩の祖、細川忠興なども好んで料理を作ったという。
武家の嗜みとして包丁は必須のものであった。」(二)84頁

とか、

「この時代、すでに醤油はあったが、一般には普及していない。刺身は酢か、あるいは煎り酒をつけて食した。煎り酒は、鰹節と梅干を古酒で煮詰めた、濃いだし汁のようなものである。」

などの料理うんちくのほか、

「連歌は、この遥か以前、『日本書紀』の時代から始まったとされ、室町時代に成熟期を迎えていた。和歌から派生したものだが、多人数で読み継ぐところに特徴があり、五七五の「発句」を始めの者が読み、次の者が発句にちなんで七七の「脇句」をつける。さらに脇句を踏まえて五七五、七七と連ねていく。通常、十人程度で座を囲んだ。連歌は百区をもって一区切りとする。五七五の長句を一句、続く七七の短句も一区に数えるので、和歌に換算すれば五十首ができることになる。最後の短句は「挙句」という。」

などといった、種々の文化的うんちくがそこかしこに散りばめられており、ストーリー以外の部分でも読者を飽きさせません。

本作品の最大の見せ場は、スピード感のある合戦描写にあり、
第二章や第五章の合戦シーンの描写の巧みさや情景描写の上手さにより、さながら合戦が読者の目の前で展開されるがごとき臨場感を味わえます。

また、そうした状況の描写の巧みさに加えて、合戦シーンにおける登場人物たちの心情描写に、当時の侍たちの死生観や倫理観の解説が加わり、非常に面白いものとなっています。

砦をめぐる攻防戦や、クライマックスの木津川合戦の死闘では、家の維持・存続のために命をやりとりする侍たちの姿が、残酷な戦の中にあっても悲壮感なく、むしろあっけらかんとした様子で描かれます。

本作品は、主人公・景の成長譚です。
「醜女で悍婦」とされ、戦の何たるかもわからないまま華やかな戦に憧れ、瀬戸内から難波に向かった景が、戦の非情さ・冷酷さを知り、現実に打ちのめされつつも、再び刀をとって立ち上がるという、冒険活劇の王道というべきストーリー展開ですので、時代小説に馴染みのない方でも全く違和感なく読み進めることができます。

本作品に限ったことではありませんが、時代小説には、忠義、信頼、正直さ、誠実さ、真心、情け、といった、損得や経済合理性だけでは計れない価値観を思い起こさせてくれるような作品が多くあります。

人生をかけた選択の際に、こうした価値観が心の内にあれば、根本のところで道を違えることはないだろうな、などと思いながら、気が向いたら時代小説を読んでいます(自分の子供にも是非読ませたいと思っています)。

みなさまにも、是非一度お手に取っていただけましたら幸いです。


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