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2021-01-31

「金持ちフリーランス 貧乏サラリーマン」から考える勤務弁護士のキャリアプラン① 勤務弁護士というシステム

こんにちは。齋藤です。

 

 

今回は、やまもとりゅうけん著「金持ちフリーランス 貧乏サラリーマン」を取り上げたいと思います。

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弁護士業界の人はあまりこのテの本を読まないような気がします。

 

著者のやまもとりゅうけん氏は、ネットでかなり有名な方で、こうした「お金」関係の著作やオンラインサロン等で幅広く活躍している人です。まさに今風なビジネスの権化のような人で、名前で検索すれば本人のツイートやyoutubeがわんさと出てきます。

いろいろな思いを抱えながら、独立しようか否か悩まれているイソ弁・ノキ弁・サラリーマン弁護士の方や、就職先について検討している司法修習生の皆様に、この本は新たな視点を提供してくれるものと思います。

以下は、本書の内容を勤務弁護士に敷衍して若干の考察を加えていくものです。

本書はポップな内容でサクッと読めますので、お忙しい方でも時間をとらせず、しかもなにかしらの有用な気付きが得られるものと思います。たまにはこうした畑違いの書籍を読むのも勉強になる気がします。

 

 

0 はじめに

最初に私の話をさせて頂きますと、私は、司法修習終了後、2014年1月から2020年3月まで約6年間、法テラス(日本司法支援センター)でサラリーマン弁護士として仕事をしておりました。

いろいろ考えるところがあって、法テラスを辞め、共同経営というかたちにして現在の事務所に入れてもらい、サラリーマンからフリーランスに転身しました。

法テラスの弁護士は確かに高給取りではないですが「貧乏サラリーマン」というほど卑下するものではなく、他方、独立したとたん「金持ちフリーランス」になったわけでももちろんありません。

一方で、独立したことで私が法テラス時代に感じていた心理的負担からかなりの程度解放されたことも事実です。

若手弁護士は、基本的に「一人前の弁護士になるにはどうすればよいか」という観点から、法律家としてのスキル、すなわち法律に関する知識等々を磨くことに注力してきたものと思います。

もちろん、そうした法律家としてのスキルを伸ばしていくことで全く迷いなく明るい弁護士人生を歩ければ最高です。

しかし、残念ながら私はそうではなく、サラリーマン弁護士を続けているうちに、このままこの仕事を続けていけるのだろうかと迷うようになってしまいました。

私と同じように、この先どうしようかと考えているイソ弁・ノキ弁・サラリーマン弁護士の方々とこの本の話をシェアし、また、フリーランスに転身してみての感想等についても総括できればと思い、この記事を書いております。

 

1 イソ弁・ノキ弁・サラリーマン弁護士の定義

まずは、独立前の弁護士の立場というものを再確認しておきたいと思います。小見出しは「定義」としていますが、そんなにちゃんと書けているわけではありませんので悪しからず。

・イソ弁とは

イソ弁は「居候弁護士」の略で、ボス弁と雇用契約ないし業務委託契約を結び、ボス弁から給料ないし業務委託報酬を受け取る勤務形態です。

・ノキ弁とは

ノキ弁とは、「軒先弁護士」の略です。イソ弁とは異なり、ボス弁と雇用契約ないし業務委託契約を締結しているわけではなく、定額の給料等は発生しません。

もともとは法律事務所の建物内に間借りし、事務所とはまったく別個に事件処理をし、完全独立採算となっている弁護士を指していましたが、現在では、ボス弁と共同受任をして報酬の一定割合をもらったり、事務所に経費を納めたりと、事務所から全く独立採算ではない人も「ノキ弁」と呼称していたりと、「ノキ弁」のかたちはかなり多様なものとなっています。

結局のところ、名目上のみ法律事務所に所属していて、その地位が保証されているわけではない弁護士を総称して「ノキ弁」と呼んでいる、ということになるのかもしれません。

・サラリーマン弁護士

サラリーマン弁護士の場合、原則的に雇用先企業と雇用契約を締結しており、給料が支払われます。イソ弁・ノキ弁は自営業者であるのに対し、サラリーマン弁護士は完全な給与所得者です(ただし、昨今、副業として個人で事件を受任して収入を得ることが許されている企業もあるなど、多様な働き方が存在します。)。

以下では、イソ弁・ノキ弁・サラリーマン弁護士を総称して「勤務弁護士」としています。

ノキ弁は本来の意味では勤務弁護士ではありませんが、ノキ弁の形態が多義的になっており、事務所の軒先だけ間借りしている純粋な「ノキ弁」は少ないのではないかという主観から、勤務弁護士に含めて話を進めさせて頂きます。

 

2 勤務弁護士を雇う理由

なぜこうした勤務形態が存在するのでしょうか。

私は少なくとも司法修習生時代に、この点について深く考えたことはなく、弁護士業界が持つギルド的な側面から徒弟制度的な文化が根付いているのだろうというようにうっすら思っていた程度です。

そもそも、ボスに指導して頂かなければ右も左もわからないわけですので、勤務弁護士としてどこかの事務所に所属するのはいわば当然と考えていました。

上述のような認識で特に間違っているとは思っていませんが、他方で、経済的な側面からそうした勤務形態の発生原因を見てみますと、また一味違った雰囲気になります。

・収入を増加させる手段としての勤務弁護士

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弁護士業はいわゆるクライアントワークです。

クライアントから受注し、クライアントが満足する仕事をして報酬をもらうというのが弁護士のビジネスです。

基本的に、自分の手を動かして仕事に対する対価をもらう職人商売ですので、弁護士一人がこなせる仕事量に限りがある以上、その収入にも限りがあるはずです。

このことを本書では、

「個人でクライアントワーカーとして働いているうちは、たとえ年収3000万円を稼いでいようと、「時間の切り売り」の域は抜け出すことができません」

と表現されています。

他方で、フリーランスの動画編集者を例にとると、

「クライアントが満足する仕事を続けていれば、既に付き合いのあるクライアントからの受注を継続できるとともに、新規の受注も増えてくることでしょう。するといずれ、自分一人では抱えきれないくらいに案件が舞い込んでくるようになります。ここで、「すみません、今は忙しいので・・・と」断ってしまうのはもったいない。自分の周りに、技術的に信頼できる仲間を作っておけば、彼らに仕事を振り、手数料を得ることで、動画編集を『少労所得化』することが可能になります。

「多くの仕事を請け負える仕組みを作り、「受注する側」から「発注する側」に回ることで、『少労所得』を達成することができるのです。」

これを本書では「商流を上げる」と表現しています。

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つまり、自分が手を動かさずとも、他人に手を動かしてもらって、そこから収入を得ることで、自分がこなせる仕事量から生まれる収入以上の収入を得るという方法です。

他方で、弁護士は、そのまんまこの方法を採ることはできません。

弁護士職務基本規程13条1項 弁護士は、依頼者の紹介を受けたことに対する謝礼その他の対価を支払ってはならない。

同2項 弁護士は、依頼者の紹介をしたことに対する謝礼その他の対価を受け取ってはならない。

との規定があるからです。

その理由としては、「何らの法律事務を行うことなく弁護士が依頼者(事件)を紹介したということだけで、その相手方から対価(紹介料)をもらうことは品位にもとる」「弁護士が依頼者を紹介して対価を受け取ることを目論んで事件集めをする行為は品位を失する」、と考えられているからです。

結局、弁護士たるもの自分の手を動かし、その範囲で得られる収入で満足すべきで、不労所得(少労所得)を得ようとすることは「品位を失する」ということなのでしょう。

このような規定から、弁護士は手数料を得て「少労所得」を達成することはできません。

そこで弁護士業で行われている「商流を上げる」方法は、大まかに言って二つです。これが、

①イソ弁を雇う。

②ノキ弁を事務所に入れる。

という方法です。

例えば、ボス弁が一人、イソ弁が一人、という事務所形態を考えてみます。

ボス弁がこなせる仕事量を1、イソ弁(ノキ弁)がこなせる仕事量を0.7、仕事量1あたりの収入が1000万円だとします。

ボス弁一人では、仕事量1で収入は1000万円となります。

イソ弁を一人入れれば、事務所全体の仕事量は1.7、事務所全体の収入は1700万円となります。

ここで、イソ弁の給料を500万円に設定すれば、ボス弁は、イソ弁の仕事量分の収入700万円ー500万円=200万円の収入を増やすことができます。

極めて単純化すると、イソ弁を雇うことによる経済的なメリットはこのようなものになるはずです。

いまのは仕事量の話でしたが、さらに、ボス弁一人ではこなせない(荷が重い)ハイレベルな案件(仕事の質の問題)を手掛けることで、仕事量1あたりの収入を1000万円→1500万円に増やす、という効果も期待できるような気がします。

他方で、①イソ弁が給料以上の仕事量(0.5以上)をこなせない場合や、②ボス弁がイソ弁(ノキ弁)を手取り足取り懇切丁寧に指導し、依頼者との打ち合わせに同席し、起案をしっかりチェックするなどし、そのコストの分だけボス弁の仕事量が低下した場合、ボス弁+イソ弁の仕事量=1.7という数式が成り立たなくなってしまい、イソ弁を雇った場合の経済的メリットを享受することはできません。

つまり、ボス弁がイソ弁に仕事量0.7を完全に任せることができてはじめて、仕事を振って200万円の紹介料をとったのと同様の少労所得化が達成されることになります。

このように、基本的には、イソ弁・ノキ弁システムは、手数料という「少労所得」を得ることができない弁護士業界において、「商流を上げる」ための唯一の手段ということができますが、ボス弁が「商流を上げる」ためには、イソ弁・ノキ弁が支払われる給料等と同等かそれ以上の仕事量をこなすことが絶対条件となります。

このように、ボス弁側から見てみると、イソ弁・ノキ弁を入れる合理的な理由は、経済的利益の一点に尽きると言っても過言ではないかもしれません(あとは、一人で事件を処理することの心理的負担の軽減や、事務所に複数名いたほうが見栄えがいい、というような副次的効果も期待できるかもしれません)。

まして、サラリーマン弁護士を雇う理由は言わずもがなでしょう。

企業は利益を生み出すために存在しているのであり、収益を最大化させるためにインハウスロイヤー等のサラリーマン弁護士を雇います。そこには、経済的利益以外の理由は何ら存在しません。

 

・弁護士業=「ビジネス」ではないはず。

他方で、上述のように書くと、弁護士業のビジネス的側面にフォーカスし過ぎているように感じます。

本書で述べられているのはあくまで一般的なビジネスにおいてより収益を上げるために「商流を上げる」という話であって、これを、「基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする」(弁護士法1条)弁護士に敷衍するのはあまりに乱暴な議論といえます。

ボスが勤務弁護士を雇うのは、そうしないと若手弁護士が食えないからであり、自分が優れた後進を育てることで、自分が諸先輩方に育ててもらった恩を社会に還元するのだという精神が脈々と受け継がれているからです(「精神」や「信念」の話であり、経済合理性というベクトルとは異なる理由づけ)。

そこにおいて、勤務弁護士を入れて儲けよう(商流を上げよう)という考え方は希薄であり、さすがに経済的にマイナスになるのは辛いので、トントンくらいになるように給料が設定されていたはずです。

他方で、弁護士の人数の増加・人材の多様化に従って、弁護士業をビジネスチックに捉える弁護士も増えてきているように思われます。

弁護士プロパーの仕事にまい進しさえすれば経営のことなど考えなくてもある程度収入(世間から見れば十二分な)があるという以前の業界の状況と比べると、経営に腐心しなければならないのが現在の弁護士業界であり、そうした側面をボスが強く意識すればするほど、弁護士業をビジネスチックに捉えざるを得ず、そうすると、勤務弁護士に対して利益を生み出すことを求める構図にならざるを得ない関係にあります。

一言で言ってしまえば、弁護士も、ビジネスすなわち「お金」という側面を意識せざるを得ない時代になっているのだと思います。

そうであれば、勤務弁護士の側でもボス弁との関係をドライに考えてもよいのではないか、というのが私の考えで、ビジネスチックな考え方をするボスとの付き合い方等々について議論を展開していきたかったのですが、予定していたよりもはるかに文字数がかさんできましたので、一旦このへんで切らせて頂きたいと思います。

 

次回②では、

3 勤務弁護士のメリット

4 勤務弁護士のデメリット

5 今が辛い、ならフリーランス

という章立てで検討を進めていきたいと思っております。

長々とお付き合い頂き誠にありがとうございました。

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