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2022-07-31

「クリエイター1年目のビジネススキル図鑑」レビュー(忖度一切無し)

こんにちは。齋藤です。

ロースクール(法科大学院)時代の友人の山田くんが本を書いたので、勝手にレビュー。
かれこれ長い付き合いですが、公正・公平、客観的にガチレビューしたいと思います。

クリエイター1年目のビジネススキル図鑑 | 山田 邦明 |本 | 通販 | Amazon

 

目次

装丁・レイアウト

極めてポップです。図やイラストが多用されており、サクサク読み進められる印象です。
従来的な「弁護士が書いた本」とは一線を画します。また、難しい話も(そこまで)出てきません。
いかにわかりやすく伝えるか、ということに比重がおかれています。

余談ですが、弁護士という人種はその職業柄、不正確な記述を嫌います。
簡潔に分かり易く書く=細部がいい加減になることとのトレードオフになりがちですが、そんなことを言ってばかりではわかりやすい本にはなりません。

細かく書くほど正確性は高まりますが、小難しくなり、読みやすさは削がれます。あえて「弁護士」の習性に逆らってわかりやすさを追求した姿勢に、この本をあまねくクリエイターに届けたいという彼の意気込みが伝わってきます。
また、わかりやすく伝えるノウハウにも、彼のこれまでの経験が凝縮されているように感じます。

chapter0 クリエイターの定義

一口に「クリエイター」と言っても、何を指しているのか、この本は誰を対象とした本なのか、まずはここをはっきりさせなければなりません。

本書では、「クリエイター」=「創作している人」と定義します。

ただ絵を描いているだけ、ただモノを創っているだけの人も、もちろんクリエイター

実質、あらゆる人が本書にいう「クリエイター」ということになります。

そして、「ビジネスは作品を創ることの一部」と言い切っています。
確かにスケッチブックに絵を描いて誰にも見せないのであれば格別、SNSにアップした時点でビジネス(商業主義)に組み込まれます。
その意味で、以下の「お金を稼ぐ」「ビジネスの基礎」「法律・契約」「税金」「独立・法人化」「トラブル対応」とは切っても切れない関係になるわけです。

chapter1 「お金を稼ぐ」ということ

最初のチャプターはビジネスモデルの解説です。
①クライアントモデル、②プラットフォームモデル、③ファンモデル、の3つのモデルが紹介されていますが、①クライアントモデルのパートが秀逸です。

出版社に書籍出版の企画を持ち込むことが例として挙げられています。
この本が出版に至るまでの企画書が掲載されており、本を出版したい人は必見です。

企業の数は日本に400万社以上、「もはや石を投げたら経営者にぶつかるレベル」だそうで、

多くの経営者は自分たちのビジネスを成功させる事象を常に探しています。そこにまさに希望をかなえてくれるクリエイターが企画書を持ってきたら、「待ってました!」と前のめりに話を聞きたくなります。実際は、このような状態なんだと知っておくと積極的に提案にいけませんか?

自らも経営者である彼だからこその説得力があります。

chapter2 ビジネスの基礎

続くチャプターは、「ビジネスの基礎」です。
「制作の時間管理のコツ」、「仕事の獲得方法」など、抽象的で掴みどころがない一方で仕事において極めて重要なポイントがわかりやすく簡潔に書かれています。

マーケティングのノウハウの蓄積、納期の管理、ビジネスマナー等、我々弁護士も含め、小規模な個人事業主というものはえてして大企業のサラリーマンに比して、こうしたことが苦手です。

「いいモノ」を創ればいいんでしょ、といったノリでそうしたことをないがしろにしがちな個人事業主は多いように感じます。しかし、契約書や請求書、領収書、ビジネスマナー等の形式面を整えてはじめてビジネスは形になる。形式面が整ってはじめて仕事に対する信用が産まれる。個人事業主はこのことをしっかりと肝に銘じておかなければなりません。
企業のサラリーマンなら普通にやるお作法を「ちゃんと」やれない個人事業主は弁護士等士業を含め、残念ながら多いように感じます。そういうことが大事だという認識を持つことの重要性にあらためて気づかされます。

chapter3 法律・契約

著作権についての説明と、契約書についての説明が主のパートです。
著作権関係の記載については、引用について書かれている部分がわかりやすくまとまっており、大変参考になります。

契約書については、本書を読めば、その重要性は認識してもらえるかと思います。
たいしてお金が動くわけではないから、というような理由でおろそかにしていると痛い目を見ます。

当事務所にご相談にみえるWEB関係の事業主の方も、契約書は作ってません、とおっしゃることは多く、まだまだ数十万円レベルの受発注であれば契約書を作らないような事業主は多いように見受けられます(だからこそトラブルになっているわけですが)。
しかし、知り合いだから、紹介してもらった人だからといって契約書を作らないというのでは、トラブルがあった時の対処の指針が全くないことになってしまいますし、双方の認識に齟齬があった場合にどちらが正しいのかがあいまいになってしまいます。

よく、契約書などないほうが、事細かく定めていないほうが融通が利いていい、などという意見を耳にしますが、最低限、金額についての合意事項だけでも定めておくことで、双方の認識に齟齬が出ることを防止できます。また、契約書は、いちどひな形を作ってしまえばあとは使いまわせばいいわけですので、契約書作成にそれほど不安感を覚える必要はないわけです。本書を読めば、「契約」ということについて、あまり肩肘をはって考える必要がないことはおわかりいただけるかと思います。

さらに、私が弁護士だから、ということもあるのかもしれませんが、こちらが契約書を作りたい、と言っても別にいいじゃないですか、と言ってくるような業者とは取引したくなくなります(そういう業者に限ってトラブルが起こったら責任を逃れようとするものです)。そのようなちょっとしたことをおろそかにする業者が細かないい仕事をしてくれるとはあまり思えませんので・・・

そのような考え方もあるわけですから、クリエイタービジネスにおいてもそうしたビジネスの形式面を整えることは極めて重要といえます。

chapter4 税金

税金についての基礎の基礎の知識が書かれています。
著者の山田くんは税金の専門家ではないですし会社を経営しているだけで税金についてそんなにノウハウがあるわけでもないでしょうから、このチャプターの内容は他のチャプターに比して薄くなっていると言わざるを得ません。

他方で、「1年目の駆け出しクリエイター」を対象にした本であると考えるなら、税金についてはこれくらいの知識があれば十分とも言えます。

私もかつてサラリーマン弁護士を辞めて独立した際、確定申告というものの面倒さは身に染みました。
駆け出しクリエイターが必要以上に不安になることなく、きっちり申告できるようになる、そのとっかかりを得るにはちょうどよい分量の記載と思われます。

chapter5 クリエイターの独立・法人化

「独立」に関して、開業届や国民健康保険、国民年金の話といった、「手続関係」に関することとと、「お金の見える化」といった「独立のためのビジネス的準備」に分けて記載されています。

「法人化」に関しては、「クリエイター1年目」にはちょっと早い気はしますが、融資の受け方や事業計画の作り方等も含め簡潔に記載されています。

chapter6 トラブル対応

最後のチャプターはトラブル対応です。
著者の山田くんはそもそも弁護士ですので、多くのクリエイターから相談を受ける機会があり、だからこその密度の濃い内容となっています。

費用の不払や誹謗中傷といったあるあるな相談から、BANされたときの対応や、「自分の作品を勝手にNFTにされた」などといった普通の弁護士ではなかなかお目にかからない相談まで、対策方法が簡潔に掲載されています。

まとめ

結論から言うと、必要十分な情報がわかりやすく詰め込まれた良書です。
クリエイタービジネスをはじめるならこれくらいは知っとこう、という情報が過不足なくリストアップされていることがこの本の最も優れた点だと思いました。
とにかくよくぞまあここまで詰め込んだな、という印象です。間違いなく買って損はないでしょう。

辛口にコメントしてやろうと思っていましたが、普通にいい本・・・

私のように、ブログでちまちま書いている人間からすると、山田くんのように本を出版する、ということの偉大さがいやおうなしにわかります。
自著の出版にリソースを割くことの大変さ、その気力には本当に頭が下がる思いです。
そうした努力の結晶、山田くんの渾身の一冊、是非ご賞味下さい。

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