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2020-09-07

ハーバード流交渉術 ●イエスを言わせる方法 その3

こんにちは。齋藤です。

 

今回も、「交渉」がテーマです。

 

ブログをアップするたびに、「長すぎる」とのご指摘を頂いておりますので、今回は少し短めにしてみました。

忌憚ないご意見を頂ければ幸いです。

 

さて、「ハーバード流交渉術」(フィッシャー&ユーリー 金山宣夫 浅井和子訳 三笠書房 1990年1月刊)をもとに、優れた交渉のありかたを考えるこのブログも、第三回まで回を重ねることになりました。

 

 

前回は、「原則立脚型交渉」(すなわちハーバード流交渉術)の考え方と交渉の進め方について概観しました。

 

今回は、「解決の扉を開く交渉戦術」(第Ⅱ章)のパートの多岐にわたる記述の中で、私が実際に「使える」と感じた「戦術」(というか金言)に触れていきたいと思います。

 

 

まず、「ハーバード流」の基本的な視点のおさらいです。

① 人:人と問題とを分離せよ

② 利害:立場ではなく利害に焦点を合わせよ

③ 選択肢:行動について決定する前に多くの可能性を考え出せ

④ 基準:結果はあくまでも客観的基準によるべきことを強調せよ

 

今回は、上記の4つの視点を敷衍して、具体的な場面でどのようにふるまうべきかについての記述を見ていきます。

 

1 「相手の言い分をすべて言わせ、しこりを残すな!」

人の怒り、いらいら、その他の反感にうまく対処する一つの方法は、そうした感情を吐き出す機会を与えてやることである。

人は自分の不平不満を誰か他人に話すだけで開放感を覚えるものである。」

そして、「相手の関係者が演説を聞いている場合はなおさらで、交渉者自身だけでなく、その背後にいる人々の不満もそこで吐き出されることになる。

相手がこのようにうっぷん晴らしをしている際は、攻撃に対していちいち反撃せず黙って聞き、言いたいことは言い尽くさせるようにし、時には『どうぞ続けてください』などと言って促すのが上策である。」

 

弁護士であれば、対立する当事者本人と一対一で話す機会は少なくありません。

トラブルについていろいろ言いたいことはあるでしょうし、こちらの依頼者に対して怒りを感じていることも往々にしてあります。

そのような状態で、依頼者の代理人である弁護士に対しても怒りをぶつけられますので、当然、理路整然とした話にはなりません。

たいていの話は弁護士に言われてもどうしようもない内容です。

しかし、弁護士が、「わかった、わかった。トラブルになって辛いのはお互い様さ。本題は金の話だ。」などと言おうものなら、イライラはさらに高まります。

こんなことは当たり前だと思われるかもしれませんが、こうしたコミュニケーションコストを払うことを渋ったせいで(あるいは渋ったと勘違いされたせいで)、知らず知らずのうちに揉め事が大きくなってしまうことはないとは言い切れないでしょう。

 

また、例えば裁判所において、相手方の弁護士が依頼者と共に来ている場合に、いつもより相手方の弁護士が熱のこもった反論をし、こちらを声高に非難してくることがあります。

上記の金言に従えば、こうした場合にも、相手の非難演説に対して逐一反論するのではなく、相手に不満を吐き出す機会を与えるほうが賢明だというわけです。

 

もちろん、相手を非難したとしても問題が解決するわけではない以上、こうしたうっぷん晴らしは、問題の解決のために積極的な意義をもつことはほとんどないわけです。

しかし、交渉が人と人によって行われる以上、そこには感情というものがつきまといますから、相手の感情を害さないということも交渉を有利に進める上で一定の意味を有するのです。

 

このように、相手からの非難や感情の爆発に対して反論せずじっと我慢することは、弱腰な交渉態度などではなく、むしろ戦術のひとつとさえ言えることになります。

 

 

2 「『役立たずの発言』はまとまる話も壊す」

「コミュニケーション不足ではなく、その過剰が障害となるときがある。」

当方としては相当譲歩しても良いと思っているときでも、そのことをはっきり言っていしまうと、かえって合意が難しくなる場合もあるものだ。

家の買い手が4万5000ドル払っても良いと言ったのに売り手が4万ドルで打っても良いという考えであったことを白状したら、まとまったであろう話もまとまらなくなってしまうかもしれない。」

重要な発言をする前に、相手に何を伝え、相手から何を引き出そうとしているのかを自問し、その発言がそうした目的に役立つかどうかを考えよ。

 

私の場合、相手方の交渉者との緊張関係を和らげ友好関係を築こうとして相手方と雑談をしようとする際に、こうした「役立たずの発言」が飛び出してしまわないか特に注意しています。

「まとまる話も壊す」ほどではないにせよ、不必要にこちらの考えを悟られたくはないので、事件に関する話題は極力避けて雑談をするというのも方法のひとつかもしれません。

そのようなリスクを冒してまで雑談をする必要はない、とも言えますが、やはり、相手方の人となりを知る上では当たり障りのない話をするというのは非常に有益だと考えられますし、また、相手方からポロっと本音のようなものを聞ける可能性もないではありません。

加えて、相手方に対しても、こちらの人となりをわかってもらい、信頼に足る人間だと思ってもらえたほうが、相互に不信感を持っているよりも交渉は成就しやすいものと思われますので、雑談等のコミュニケーションはやはり重要です。

結局、「役立たずの発言」をしないよう気を付けつつ、相手方とはしっかりコミュニケーションをとっていくのが良いものと思われます。

 

 

「毎回長すぎて読む気がしなくなる」とのごもっともなご批判にお応えするべく、今回はこのくらいにさせて頂き、続きの3~6の金言については次回以降順を追ってご紹介させて頂くことにいたします。

 

いかがでしたでしょうか。

 

「交渉術」というか、なんだか普通のことを言っているだけのような気がします。

しかし、一つ一つの金言は一般論的な普通のことであったとしても、そうした金言がすべて「双方の意思とは無関係の客観的な基準」を用いて調整を図るという究極目的に向かっているという点で、本書は「交渉術」について体系的に書かれた稀有な本というべきと考えております。

 

今回は、2500字程度に収まっていますので、以前の半分以下の分量となっております。

他方、それでもまだまだ長い気がします・・・・・

 

短くしつつも、読む価値のある「密な」情報をお届けできるよう精進いたしますので、今後ともお付き合いのほどお願い申し上げます。

 

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