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2020-09-01

ハーバード流交渉術 ●イエスを言わせる方法 その2

こんにちは。齋藤です。

 

前回に引き続き、今回も、「交渉」がテーマです。

 

「ハーバード流交渉術」(フィッシャー&ユーリー 金山宣夫 浅井和子訳 三笠書房 1990年1月刊)をもとに、優れた交渉のありかたを考えていきます。

 

 

前回は、「立場駆け引き型交渉」とそれを乗り越えるための「原則立脚型交渉」(すなわちハーバード流交渉術)について概観しました。

今回は、この「原則立脚型交渉」(ハーバード流)についてさらに詳しく見ていくことにします。

 

まず、「ハーバード流」の基本的な4つの視点のおさらいです。

① 人:人と問題とを分離せよ

② 利害:立場ではなく利害に焦点を合わせよ

③ 選択肢:行動について決定する前に多くの可能性を考え出せ

④ 基準:結果はあくまでも客観的基準によるべきことを強調せよ

 

以下の「解決の扉を開く交渉戦術」(第Ⅱ章)のパートでは、上記の4つの視点を敷衍して具体的な場面での考え方を考察します。

 

 

●「解決の扉を開く交渉戦術 - 相手にも満足感を与える最高のやり方」

このパートでは、上記の「原則立脚型交渉」の4つの視点を敷衍して、「原則立脚型交渉」の考え方に立つとどう振る舞うべきか、が述べられています。

本書の記述の順序とは異なりますが、まずは、どのように交渉を進めるべきか、という点に言及していきます。

 

・自分の主張に固執すると結局は高くつく!

利害の「対立があった場合、立場の駆け引きで解決しようとする人が多い。

別の言い方をすれば、どのような条件なら呑む気があり、どのような条件は受け入れられないのかを話し合うのである。」

「『値段は50ドル。それ以上はまけられない』というように、ひたすら自分の主張を押し付け、大幅な譲歩を迫る人もいる。

また、友情や同意を得たいために穏やかに出る人もいる。

強情比べの場合でも寛大さを競う場合でも、その交渉は、各当事者がどれだけ同意する気があるかに左右される。

結果は二つの人間の意志の相互的作用によって決まる。」

 

「私意をもとにして利害の対立を調和させようとすると高い代価を払わなければならない。

当事者同士が意志をぶつけ合い、片方が勝てば、片方は退くしかないような交渉は能率的でないし、友好的であるはずもない。」

「利害の対立を私意で解決しようとすると結局高くつく。

したがって、解決は、双方の意思とは無関係の客観的な基準によってなされるべきである。」

 

いきなり長々と引用してしまいましたが、この部分に、「立場駆け引き型交渉」ではなく、「原則立脚型交渉」によって解決すべき理由がまとめられていると思われます。

すなわち、

「立場駆け引き型」では、結局、意思と意思のバトルになり、一方のみが大幅な譲歩を迫られやすく、納得が得られにくい、さらにはそもそも合意が成立しにくい、

ということです。

 

この点を克服するため、本書では、「双方の意思とは無関係の客観的な基準」を用いて調整を図るべきと主張されます。

 

では、具体的にはどうやるのか。

 

相手の面子をつぶさないとっておきの方法

↑なんだか、内容と小見出しが合っていないような気もします(それぞれの小見出しは本文ママです)が、本書で提案されている方法は以下のようなものです。

 

⑴ 問題の解決を、客観的基準を探し出す共同作業としてとらえる。

⑵ どの客観的基準が最も適当か、それをどう適用すべきかについて、論理的に説得するとともに、相手の論理的説得も率直に聞く。

⑶ 圧力には決して屈せず、正しい原則にのみ従う。

 

まず、⑴です。

【客観的基準を見出す共同作業の形にする】

 

「家屋の売買交渉をするにあたっては、『あなたは高値で売りたいでしょうが私は安いほうがよいのです。ですから公正な値段をはじき出してみましょう。その場合、最も適当な客観的基準は何でしょうか』と切り出してみるとよい。」

「両当事者の利害は対立するかもしれないが、どちらも共通の目標に向かっている。公正な価格を決定するという目標である。」

【相手の根拠を尋ねる】

 

「売主が『5万5000ドルで売りたい』と切り出してきたら、『なぜ5万5000ドルなのですか』と、その価格の根拠を尋ねよう。

売主も客観的な基準に基づく公正な価格を探しているものと想定して問題を処理することである。」

【まず原則について合意する】

 

「合意の条件を考える前に、その前提となるひとつまたはそれ以上の適用基準について合意しておくことが望ましい。」

「相手が提案した基準は、相手を納得させるためのテコにすることができる。

相手の基準に沿って提案すれば、その提案は承認される可能性が大きい。

相手は自分たちの提示した基準を当てはめることに、もはや反対することは難しいからだ。」

 

このくだりを見てもわかるように、本書の「交渉術」とは、双方に納得のいく、公正な基準で合意を成立させるためのプロセスです。

自陣にのみ一方的に有利な内容について相手に「イエスを言わせる」ための「交渉術」ではないわけです。

この点で、本書は、「相手よりも優位に立つためにはどう振る舞うか」が主たる関心事である、よくある交渉のハウツー本とは一線を画すものとなっています。

そのため、本書には、どうすればマウントをとれるか、という問題意識は希薄であり、そうした意味での「交渉術」を期待する読者は肩透かし感もあるかもしれません。

しかも、次に出てきますが、上記の例の場合、仮に公正な金額が自分が思っているより高値であった場合、虚心坦懐に受け入れなければなりません。

そこで公正な金額をスルーして安値をゴリ押しする、という「交渉術」ではないわけです。

このように、この「交渉術」は、交渉者自身が公正なルールを受け入れられなければそもそも機能しないものなのです。

 

⑵ 【論理的に説得し、相手の論理も率直に聞け】

 

「たいていの交渉では、人は先例その他の客観的基準を、単に自分の立場を補強するための道具として使用する。

例えばある警官の組合は、一定額の昇給を要求し、それを正当化するために他の街の警官の給料を引き合いに出す。

基準をこのように使うと、ふつうますます自分の立場に深くはまり込むばかりになる。」

「正しい原則立脚型の交渉とは、決してこういうものではない」

「合意は客観的基準を基礎とすべきだと主張しても、一方が出す基準のみを基礎とすべきだということにはならない」

「一つの正当性の基準は、他の正当性の基準を否定するものではない。」

それぞれが異なった基準を持ち出すときは、客観的な根拠に基づいてその中のどれかに決めるようにする。

 

どういうことかといいますと、

「問題の解決に適した原則や基準について合意点を探ることと、単に自己の要求や主張を強調するために原則や基準を駆使すること」

は違うのだということのようです。

つまり、上記の警官の組合の例は、「単に自己の要求や主張を強調するために原則や基準を駆使している」に過ぎないわけです。

そうではなくて、「正しい原則立脚型の交渉」というものは、「問題の解決に適した原則や基準について合意点を探ること」なわけです。

 

そこでは、より給料の高い他の街を引き合いに出すのではなく、全米の警官の給料の平均や、州の警官の給料の平均、他の街や州の警官の賃上げ率、などの基準をテーブルに乗せたうえで、問題の解決に適した基準はどれかを客観的に導き出そうとする態度が求められるということではないでしょうか。

そのような態度で交渉に挑めば、相手がより説得的な主張を展開してきた場合には、それに率直に耳を傾けねばならず、そうした「論理的説得に対する率直さと客観的基準に基づく解決を求める姿勢があいまって、原則立脚型の交渉を説得的で効果的なものにする」といいます。

このように、「交渉を共同探求の場にするカギは、交渉に挑む際の自由で柔軟な態度」というわけです。

 

⑶ 【圧力に屈せず、原則や基準にのみ従え】

「圧力は多くの形をとる。わいろ、脅迫、信頼感をたてに相手をはめ込むこと、あるいは少しでも譲歩することを強情に拒否することなどである。

このような圧力がかかった時、筋の通った対処方法は一つしかない。

相手にそれらの言動の理由を述べるようにさせ、適当と思われる客観的基準を提案し、これを基準にしなければ譲歩できないと突っぱねることである。

圧力には屈せず、原則や基準にのみ従うこと。

どちらが有利だろうか。どんな場合も、というわけにはいかないが、一般的には、原則立脚型の交渉者のほうが有利である。」

なぜなら、「正当性という裏付けがあり、そのうえ理に対して柔軟であることは、説得力を持つからである。」

 

確かに、こちらの筋道立った反論に対して一定の意味を見出してくれるような相手であれば、上記のような方法で交渉を優位に進めることができるかもしれません。

しかし、相手が論理的・合理的な人間であるとは限りません。

例えば、感情のもつれなどから、主張に正当性がなかろうが絶対に譲歩しないという態度を示してきた場合、どうしたらよいのでしょう。

 

「もし相手が少しも譲歩しようとせず、しかもその主張を裏付ける説得力ある基準を出そうとしなかったら、もはや交渉を続けようがない。

その時は、値引きをしない店に買いに行くようなものである。

つまり店がつけた値段に納得できれば買うし、納得しなければ買わない ― その二つの道しかない。」

 

諦めるんかい!という感じですが、どうやら、ハーバード流交渉術では、こういう場合に相手方の凝り固まった心をこじ開ける方法は教えてはくれないようです。

しかし、ただ単に交渉決裂、というわけではないようです。

 

「このような場合、すぐ合意を断念しないで、相手の主張を裏付ける客観的基準を見逃していないかどうか見直してみよう。

もしそのような基準を見つけ、合意がないよりそれを基礎にした合意があったほうがマシと思うなら、合意することである。

横暴な主張に屈服することは高くつくが、基準が見いだせれば、相手の気まぐれに振り回されたことにはならない。」

 

結局相手の譲歩は引き出せなかったわけで、気持ちの問題のような気もしますが、最終的には、「譲歩した場合の実質的な利益と、交渉の席を立つことにより得られる、正当な交渉者としての評判とを天秤にかけて、その上で決断すべきである。」というほかないわけです。

 

弁護士の場合、このような状況に直面することはよくあります。

例えば、不貞慰謝料をめぐる交渉で以下のようなやりとりがなされたとします。

 

A弁護士:

こちらの依頼者は、不貞をされて非常にお怒りです。示談したいということでしたら300万円くらいは支払ってもらわなければ。

 

B弁護士:

しかし、本件は、1か月ほどで不貞がばれていますし、結局そちらの依頼者は離婚しないわけでしょう。

そうすると、裁判になったとしても判決で認められるのは、いくら高くても200万円を超えることはないじゃないですか。

こちらもそれに近い金額は検討しているので、もう少し歩み寄ることはできませんか。

 

A弁護士:

そうは言っても、こちらは被害者ですからね。300万円以下では応じられませんね。

 

この場合、B弁護士は、裁判実務の相場観というある程度客観的な基準を示して提案しているのですが、A弁護士は、「怒っている」というほか特に理由は示さず、譲歩はしないという態度を示しています。

もちろん、A弁護士の依頼者の怒りは正当なものですし、300万円支払えという主張は不当なものでは全くありませんが、少なくとも、裁判実務においてその金額が認められるケースは限られているといえますので、B弁護士としては、その辺をA弁護士から依頼者に対してもう少し丁寧に説明してもらって折り合いをつけたいところです。

しかし、A弁護士は一切の譲歩を拒絶しているわけです。

 

ここで、B弁護士は、①譲歩した場合の実質的な利益、すなわち、裁判にならずに済むことと、②300万円という基準からは逸脱した主張に対し、交渉の席を立つという正当な決断をした交渉者という評判とを天秤にかけることになるのです。

どちらを選ぶのかは、裁判で判決となった場合の認容額の見通し、どの程度裁判が長期化しそうか、裁判となった場合に必要になる弁護士費用、300万円を支払ってでも現時点でこの件を終結させることに対する依頼者のモチベーション、などを総合的に考慮して決めることになるのでしょう。

 

なんだか、普通なことを言っているに過ぎないようにも思えます。

やはり、相手方が全く譲歩しないという姿勢を示した場合には、「交渉術」を発動する機会もないわけで、交渉が難航することは間違いないのでしょう。

 

 

以上、「ハーバード流交渉術」における交渉の進め方の原則を見てきましたが、いかがでしたでしょうか。

 

抽象的な話が多く、結局具体的な交渉の場においてはどうすればいいか、には答えてくれないと感じた方も多いかもしれません。

 

そうした、相手がこう出てきたらどうする?というような内容は、次々回の「不利な状況さえ乗り越える交渉術」(第Ⅲ章)のパートにおいて取り扱っていきたいと思います。

上記のような、相手が全く譲歩しようとしない場合の対処法なども紹介されています。

 

次回は、「解決の扉を開く交渉戦術」(第Ⅱ章)のパートの多岐にわたる記述の中で、私が実際に「使える」と感じた「戦術」(というか金言)に触れたいと思いますので、次回もお付き合いいただけましたら幸いです。

 

 

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