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目 次
● はじめに
最近ようやく「ドローン」という言葉が一般的になってきましたが、実際にドローンが飛んでいるところを見たことがある方は少ないのではないかと思います。
当事務所では、ドローンの持つ可能性・法規制の状況等を考察するため、実際にドローンを購入して検証しましたので、以下、順に述べていきたいと思います。
なお、本記事における法規制は、2020年12月時点でのものですので、参照される場合にはご注意ください。
本記事は、「ドローン・ビジネスと法規制」(森・濱田松本法律事務所 ロボット法研究会編著 清文社 2017年)を参考にしています。
同書が発行されてから、この記事を書いている2020年12月現在までにさらに法改正がなされており、同書は最新の内容というわけではありませんが、ドローン関連の法律について網羅的かつコンパクトにまとめている良書ですので、さらに詳しくお知りになりたい方はご一読ください。
● ドローンとは
あまり耳慣れない言葉ですが、そもそもどういう意味なのでしょうか。
無人航空機全般を指して「ドローン」と呼んでいるわけですが、英語の「drone」は、元来、ハチの(ブーンという低い)羽音を指す言葉であるところ、回転翼を持つ無人航空機が飛ぶ際の音がその音に似ていることから、俗称として用いられるようになったようです。
「ドローン」と言うと、複数の回転翼(ローター)を持つもの(マルチコプター)を想定しがちですが、例えば、米軍の軍用ドローン「プレデター」のような固定翼のタイプの無人航空機も「ドローン」の範疇に入ります。
また、回転翼の数も、一般的な4つのローターの「クアッドコプター」のほか、ローターが6つの「ヘキサコプター」、ローターが8つの「オクトコプター」など様々です。
● ドローンの普及の理由
ドローンがここまで普及するようになったのにはどんな理由があるのでしょうか。
現在ほどドローンが普及する以前にも、ラジコンヘリや、ラジコンマルチコプターは数十年前から既に存在していました。
従来のラジコンヘリは、いわば実際にヘリコプターを操縦する際の要領で、操縦者がマニュアルでローターの出力の調整や姿勢制御を行って、実物を縮小したサイズのヘリコプターを飛ばすというもので、操縦には相応の技術が必要でした。
他方で、現在のドローンは、コンピュータ制御(自動制御ソフト、ジャイロセンサー、加速度センサー、気圧センサー、GPS等)の導入により、機体の操縦が従来よりも格段に容易になっています。
そして、こうしたコンピュータ制御を可能にする電子部品やセンサー類が小型化・低価格化したことで、現在のような普及をみるに至ったものです。
● 当事務所のドローン
↑↑↑当事務所所有のドローン「DJI Mini 2」です。
重量200g未満(199g)を実現し、後述する航空法における「無人航空機」の規制対象から外れることで、煩瑣な手続を要さずして誰でも手軽にドローンを楽しめることを狙ったホビー・ドローンです。
最大18分間のバッテリー駆動時間を持ち、最高時速は約57㎞ですので、かなりの航続距離を誇ります。また、風速29〜38 km/hの風にも耐えることができ、最高高度3000 mまで飛行できるとのことです。
重量200g未満のドローンであっても、もはや飛べないところはないというレベルです。
操作も極めて容易で、ワンタッチで離陸し、GPSによりワンタッチで離陸した場所に帰還することが可能です。
ラジコンヘリを触ったことがある人間であれば、離陸や着陸の際の操作のあまりの簡単さに驚かれることでしょう。
また、飛行中の動作も極めて安定しておりますので、よほどの操作ミスを犯さない限り墜落することはなさそうに思われます。
他方で、あまりに容易に高速挙動が実現されているため、例えばこれを人混みの中で飛ばすなど、危険な操縦も容易に可能となってしまいます。
現在の制御システムでは、墜落や衝突の危険を完全に防ぐことはできず、危険な操縦の防止は、ひとえに操縦者のモラルに依拠せざるを得ないのが現状と言えます。
もちろん、安全に使用すれば、空撮のみならず、様々な用途に使用することができ、これほど便利なものはありません。
新たなテクノロジーを規制でがんじがらめにしてしまって発展の芽を摘むことがあってはならないのですが、一方で、安全のために必要な規制は施さねばならず、その線引きは常に困難を伴います。
● 無人機規制法による規制
次に、ドローンに適用される法規制について見ていくことにします。
上述してきた通り、誰でも容易に操作が可能なドローンですが、その容易さゆえに、危険もまた容易に生じかねないのは自動車やオートバイと同様です。
そうした危険を防止するために、ドローンには以下に見るように様々な規制が存在します。
(1) 「無人航空機」の定義
2015年に航空法が改正され、ドローンを念頭においた「無人航空機」に関する定義が新設されました。
「無人航空機」に該当すれば、航空法による規制の対象となり、これに該当しなければ、同法の規制の対象外となります。
「無人航空機」とは、「航空の用に供することができる飛行機、回転翼航空機、滑空機、飛行船その他政令で定める機器であつて構造上人が乗ることができないもののうち、遠隔操作又は自動操縦(プログラムにより自動的に操縦を行うことをいう。)により飛行させることができるもの(その重量その他の事由を勘案してその飛行により航空機の航行の安全並びに地上及び水上の人及び物件の安全が損なわれるおそれがないものとして国土交通省令で定めるものを除く。)」(航空法2条22項)と定義されます。
言い換えれば、「人が乗ることができない飛行機、回転翼航空機、滑空機、飛行船であって、遠隔操作又は自動操縦により飛行させることができるもの」と言え、マルチコプターのドローンのほか、ラジコン機、農薬散布用ヘリコプター等もこれに該当します。
他方で、上記の通り、航空法2条22項において、「その重量その他の事由を勘案してその飛行により航空機の航行の安全並びに地上及び水上の人及び物件の安全が損なわれるおそれがないものとして国土交通省令で定めるものを除く。」とされているところ、この法律上の規定を受けて、航空法施行規則により、重量200g未満のものを除く旨が定められています。
これにより、重量200g未満のドローン等は、航空法上の「無人航空機」に該当せず、同法による規制を受けないことになります。
これは、重量200g未満の無人航空機はその機能や性能が限定される(バッテリー性能が限定されることにより航続距離が減少する、搭載するモーターの性能が限定されることにより巡航速度が減少する、積載量が減少する等)ことから、仮に人や物件に衝突しても被害が限定的であると考えられることで除外されることになったものです。
なお、ここでいう「重量」とは、無人航空機本体の重量とバッテリーの重量の合計を言うものであり、バッテリー以外の取り外し可能な付属品の重量は含まないものとされています。
上記3で紹介した当事務所のドローンは、重量200g未満(199g)を実現することで同法における「無人航空機」の規制対象から外れ、以下にみるような航空法上の規制をクリアすることを狙った商品です。
ここで、重量の点について、近時、航空法施行規則が改正され、航空法上の「無人航空機」の定義から除外されるのが、重量100g未満のドローン等についてのみとなる見込みとの報道がなされています。
2015年の航空法改正時点では、200g未満の機体は「遠くまで飛ばせず、危険性が小さい」と考えられたため航空法の規制外とされていたのですが、技術の進歩により、200g未満でも一定の航続力、速度を持つドローンが市場に出回るようになり、規制強化の流れとなったようです。
(2)飛行空域についての規制
「無人航空機」に該当する場合、以下の航空法上の無人航空機の飛行空域に関する規制の対象となります。
なお、屋内や網等で四方・上部が囲まれた空間については、これらの規制は適用されません。
航空法は、第132条1項において、以下のように定めています。
「何人も、次に掲げる空域においては、無人航空機を飛行させてはならない。」
① 無人航空機の飛行により航空機の航行の安全に影響を及ぼすおそれがあるものとして国土交通省令で定める空域
② 前号に掲げる空域以外の空域であって、国土交通省令で定める人又は家屋の密集している地域の上空(C)
132条1項1号(上記①)にいう「航空機の航行の安全に影響を及ぼすおそれがある」「国土交通省令で定める空域」とは、航空法施行規則によると、
・空港周辺の空域(A)
・地表又は水面から150m以上の高さの空域(B)
を指します。
これら、上記(A)・(B)・(C)の空域に該当する場合、航空法第132条2項2号による国土交通大臣の許可が必要となります。
これを図で示すと以下のようになります。
(出典:国交省WEBサイト「無人航空機(ドローン・ラジコン機等)の飛行ルール」)
上記の「人または家屋の密集している地域」(人口集中地区)について、飛行させたい場所が人口集中地区に該当するか否かは、国土地理院のWEBサイトから確認することになります。
下の地図は、国土地理院のWEBサイトで掲載されているものです。
人口集中地区(C)は赤、空港等周辺(A)は緑で表示されています。
これを見ますと、滋賀においても、ある程度の市街地ならば人口集中地区ということになります。
このように、およそ市街地で「無人航空機」を飛ばそうとすれば、国土交通大臣の許可が必要になることになります。
(3)飛行方法についての規制
「無人航空機」を飛行させる場合、以下のルールに従って飛行させなければなりません。
- [1] アルコール又は薬物等の影響下で飛行させないこと
- [2] 飛行前確認を行うこと
- [3] 航空機又は他の無人航空機との衝突を予防するよう飛行させること
- [4] 他人に迷惑を及ぼすような方法で飛行させないこと
- [5] 日中(日出から日没まで)に飛行させること
- [6] 目視(直接肉眼による)範囲内で無人航空機とその周囲を常時監視して飛行させること
- [7] 人(第三者)又は物件(第三者の建物、自動車など)との間に30m以上の距離を保って飛行させること
- [8] 祭礼、縁日など多数の人が集まる催しの上空で飛行させないこと
- [9] 爆発物など危険物を輸送しないこと
- [10] 無人航空機から物を投下しないこと
このうち、特に[6]と[7]が重要と思われますので、これらについて解説します。
ア|まずは、「目視の範囲内で飛行させる」[6]とのルールについてです。
無人航空機は、無人航空機及びその周囲の状況を目視により常時監視して飛行させる必要があります。
実際に操縦者が目視することが墜落や衝突を防いで安全に航行するために必要と考えられているためです。
ここで、モニターを活用して見る場合や、双眼鏡やカメラ等を通じて見ることは、視野が限定されることから、目視には含まれないものと解されています。
この点、ドローンのプロポ(コントローラー)にモニターが装備されており、ドローン本体に搭載されたカメラの映像をプロポのモニターに映し出せる仕様のものは多いわけですが、目視できない距離で、モニターの映像を頼りにドローンを操縦することは、このルールに抵触することになります。従って、FPV(ファーストパーソンビュー:一人称視点)のみでドローンを操縦することは許されないことになります。
イ|次に、「人または物件との間に30m以上の距離を保つ」[7]とのルールについてです。
無人航空機が人や物件に衝突することを防ぐため、直線距離で30mを保って飛行させなければなりません。
距離を保つべき「人」には、無人航空機を飛行させる者及びその関係者は含まれないものと考えられています。従って、例えば、イベントのエキストラやドローンレースの大会関係者など、無人航空機の飛行に直接的または間接的に関与している者は当該「人」には含まれないことになります。
「物件」に該当するのは、車両等と工作物に大別されます。
車両等:自動車、鉄道車両、船舶、建設機械等
工作物:ビル、住宅、工場、倉庫、橋梁、鉄塔、信号機等
こうしてみると、およそ何らかの物があれば、その30m以内ではドローンを飛ばすことはできないことになります。
なお、飛行させる者やその関係者が管理する物件はやはり当該「物件」には含まれません。
(4)許可・承認について
航空法132条で禁止されている飛行空域において無人航空機を飛行させる場合(上記⑵の場合)には、国土交通大臣による「許可」が必要となります。
航空法132条の2に定められている飛行方法によらない飛行を行う場合(上記⑶の場合)には、国土交通大臣による「承認」が必要となります。
国土交通省によれば、許可・承認の審査のためには、飛行開始予定日の少なくとも10開庁日前に所定の提出先に申請書類を不備等のない状態で提出する必要があるとされています。
許可・承認の申請方法や申請書の書式等に関しては、以下の国土交通省のWEBサイトをご活用ください。 ↓↓↓
航空:3.許可・承認手続きについて – 国土交通省 (mlit.go.jp)
(5)航空法違反による罰則
上述した規制に違反するとどうなるのでしょうか。
航空法157条の4~6は、「無人航空機の飛行等に関する罪」について定めていますので、興味がおありの方は条文をご参照下さい。
簡単に述べますと、違反行為ごとに刑罰の重さが異なっています。
最も重いものは、157条の4で、第132条の2第1項第1号の規定(空港 等の飛行禁止空域に関する規定)に違反して、道路、公園、広場その他の公共の場所の上空において無人航空機を飛行させた場合に、「1年以下の懲役又は30万円以下の罰金」が定められています。
次に重いものが「50万円以下の罰金」、最も軽いもので「30万円以下の罰金」となっております。
最も重いものの場合、懲役刑まで定められておりますので、略式手続ではなく通常公判が開かれうることになります。
さらに、両罰規定が定められており、法人等の業務または財産に関して法人等の従業員等が航空法の規制に違反した場合は、無人航空機を操縦した個人のみならず、当該法人等も罰金に処せられます。
● 無人機規制法による規制
上述の通り、航空法上の「無人航空機」に該当しない場合(重量200g未満のドローン等)、航空法上の無人航空機の飛行に関する規制は適用されません。
しかし、それでは、重量200g未満のドローン等であればなんら法規制がなされていないかと言うとそうではなく、「小型無人機等飛行禁止法」(「重要施設の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律」)という法律によって規制がなされています。
これまで見てきた通り、航空法では、飛行禁止区域の定めのほか、飛行方法の定めが置かれていましたが、小型無人機等飛行禁止法では飛行禁止区域が定められているのみで、飛行方法については定められておりません。
従って、重量200g未満のドローン等であればどのような方法で飛行してもよいことになります。
例えば、目視できない距離で、モニターの映像を頼りにドローンを操縦してもよいわけですし、FPV(ファーストパーソンビュー:一人称視点)のみで操縦することも問題ないわけです。
一方で、「対象施設周辺地域」すなわち、国の重要施設(皇居や首相官邸、中央省庁等)、外国公館、原子力事業所等の周囲おおむね300メートルの地域が飛行禁止区域とされ、重量200g未満のドローン等であっても、これらの地域の飛行は原則として禁止されています。
● 各自治体等による規制
飛行禁止区域について、上記の航空法、小型無人機等飛行禁止法による規制のほか、各自治体では、公園条例で公園内でのドローンの飛行を禁止するなどしており、東京都の公園条例のように重量200g未満のドローン等も規制の対象としている自治体もあるようですので、公園でドローンを飛ばそうと考えた場合、注意が必要です。
なお、現時点で、滋賀県では、ドローンの飛行を禁じる条例は制定されていないようですので、飛行禁止区域については航空法・無人機規制法の規制のみをクリアすればよいことになります。
● ドローンの飛行の際に生じる問題
以下では、ドローンの飛行に際して問題となり得る事柄をピックアップし、考察していきたいと思います。
⑴ 他人の所有する土地の上空の飛行
他人の所有する土地の上空にドローンを飛ばすことは問題ないのでしょうか。
例えば、飛行機やヘリコプターが他人の土地の上空を飛行する場合、いちいちすべての土地所有者の同意を得ているわけではありません。
そうであれば、ドローンで他人の土地の上空を飛行することは問題ないのでしょうか。
すなわち、土地の所有権は、土地の上に建物を建てる場合のような土地の表面についてだけの権利なのか、それとも、土地の上空や、土地の地下にまで及んでいるのか、という問題です。
これについて、民法207条において、「土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ」とされており、上空や地下にも土地所有権が及ぶことが明らかにされています。
それでは、なぜ、飛行機やヘリコプターは、他人の土地の上空を飛行できるのでしょう。
ここで、土地所有権は、土地の上空や地下にも及ぶのですが、他方で、その範囲はあくまでも「利益の存する限度」においてであると解釈されています。
そのように解さなければ、地球の中心から宇宙まで土地所有権が及ぶ、ということになり、現実離れしてしまうからです。
そうすると、飛行機やヘリコプターが他人の土地の上空を飛行できるのは、これらが土地の数百メートル上空を飛んでいるため、このようなはるか上空は土地の「利益の存する範囲」ではないため土地所有権が及ばない、という説明が可能になります。
また、飛行機やヘリコプターが他人の土地の上空を飛行していたとしても、そのことにより土地の利用が妨げられる、ということはほとんどないでしょう。
そうすると、仮に土地所有権が数百メートル上空にまで及んでいると理解したとしても、土地所有権者が飛行機やヘリコプターに対して、土地所有権に基づいて飛行の差止めなどを求めた場合、権利の濫用(民法1条3項)として認められることはないものと考えられます。
それでは、ドローンの場合はどうでしょうか。
ドローンは、飛行機やヘリコプターよりも、低空で飛行することが想定されますので、「利益の存する範囲」ではないため土地所有権が及ばない、とは言い難い場合も多いものと思われます。
従って、地表から十数メートルほどの高さを飛行する場合、所有権侵害に当たり得ると言わざるを得ないものと思われます。
誰しも、自身の土地上を見知らぬドローンがブンブン飛び回っていれば不安を感じるでしょう。
結局のところ、当たり前ですが、所有者の承諾を得て飛行することが無難であることは論を待ちません。
⑵ ドローンを用いた撮影(空撮)によるプライバシー権・肖像権等の侵害
例えば、ドローンを用いて空撮した際に、民家や庭、マンションの一室などが写り込んでしまった場合に、そうした撮影行為や、撮影後のインターネットでの公開がプライバシー権侵害となるのでしょうか。
この点、撮影によって得られる利益と、撮影によって失われる利益とを比較衡量して、後者が前者を上回る場合には違法であると判断されるものと考えられますが、たまたま映り込んでしまった場合には、それが違法となることはあまり考えにくいものと思われます。
他方で、他人の住居の内部を覗き見るような態様で撮影し、公開した場合は、それがプライバシー権の侵害となる可能性は高いものと言えるでしょう。
同様の問題は、たまたま第三者が写り込んでしまった場合にも生じます。
この点も、例えば、公共の場で風景等を撮影しようとした際に、たまたま第三者が写り込んでしまった場合に、それを撮影しネットで公開したとしても肖像権侵害にあたると解されることは少ないものと思われます。
ただ、直ちに違法となるわけではないにせよ、トラブル防止の観点から、ぼかしを入れるなどして個人が特定できない態様で公開することが望ましいものと言えます。
⑶ ドローンによる事故
ドローンが墜落したり、人や物に衝突して人的・物的被害が生じた場合はどうなるのでしょう。
墜落等が生じる原因ごとに考えてみたいと思います。
ア|操縦ミスによる墜落等
ドローンの操縦方向を誤ったり、スピードの出し過ぎなどによって墜落や物・人への衝突が起こり得ます。
このような操縦ミスによる事故では、操縦者の過失が認められるのが通常と考えられますので、事故を起こした操縦者は、被害者に対して、不法行為責任を負い、損害を賠償する義務を負うことになります。
イ|バッテリー切れによる墜落等
ドローンの飛行時間は、長いものでも30分程度とそれほど長くはないため、時間を忘れて飛ばしていたらバッテリー切れを起こしてしまうことになります。
また、バッテリーの残量をしっかり把握していたとしても、風が強かったり、気温が低かったり、電波状況が悪かったりといった要因で、飛行可能時間内であってもバッテリー切れを起こす可能性があります。
さらに、DJI社製のドローンのようにいわゆるRTH(リターン・トゥ・ホーム)機能が備わっており、バッテリー残量の減少により自動的に帰還するように設定されていたとしても、遠くまで飛ばし過ぎて、バッテリーが切れる前に帰還できず、墜落するということも考えられます。
ドローンを長時間飛行させればバッテリーが減少し、最終的には墜落することはわかっているため、操縦者はそのような事態を回避して、バッテリーの残量に注意し、バッテリーが尽きる前に飛行を中止して安全に着陸させ、墜落等を防ぐ義務があると考えられるため、そうした義務を怠って墜落させてしまった場合には、過失が認められることになります。
ここで、例えば強風のためにバッテリーが通常より早く尽きてしまったとしても、そのような状況を考慮しつつバッテリー消費に注意して飛行すべきであると考えられるため、直ちに過失が否定されることはないと考えられます。
ウ|強風による墜落等
ドローンが強風で流され、墜落して他人に損害を与えてしまった場合はどうでしょう。
ドローンが強風にあおられて墜落してしまうリスクは予見されるため、風が強い場合は、飛行を中止する義務があると考えられ、過失は肯定されるものと思われます。
他方で、想定しがたい突風により墜落した場合のように、予見可能性がそもそも否定される場合には過失には当たらないものと考えられますが、全く何の前触れもなくドローンが墜落するほどの突風が吹くという状況自体、あまり考えにくい気はします。
エ|自律飛行中の墜落等
近時、市販のドローンに自律飛行機能が備わるようになっており、例えば、上空を旋回したり、撮影したい対象を追尾したりということがドローン側のプログラムによって自動で行われます。
このような自律飛行中に墜落や衝突が起こった場合、操縦者は責任を問われるのでしょうか。「操縦」していたわけではない、として免責されることがあり得るのか、という問題です。
自動車のオートパイロット機能使用時の事故の場合にも同様の問題が生じるわけですが、このような場合には、「操縦ミス」を問題とすることが難しい場合も少なくないものと思われます。
一方で、免責されるのか、と言われるとそうでもなく、事故が起こった瞬間には操縦していなかったとしても、自律飛行させる判断をした時点で、そのような判断を下したことに過失がなかったか、また、自律飛行中の緊急時の対応について十分に準備できていたか、と言った点において、過失が問題となり得るものと思われます。
● ドローンの製造業者等の責任
ドローン自体の欠陥によりドローンが墜落したり、人や物に衝突して人的・物的被害が生じた場合はどうなるのでしょう。
●「製造業者等」とは
製造物責任法2条3項は、以下の①~③の「製造業者等」に、欠陥によって事故が発生した場合の責任を定めています。
①製造物を業として製造、加工又は輸入した者(1号)
→ドローンを製造しているメーカー、海外製のドローンを輸入・販売している業者がこれに当たります。
②製造業者として製造物にその氏名、商号、商標その他の表示をした者、製造物にその製造業者と誤認させるような氏名等の表示をした者(2号)
→自ら製造、加工、輸入を行っていなくとも、製造業者、加工業者又は輸入業者として自己の氏名等の表示を行った場合には、責任の主体となります。
例えば、OEMにより供給されたドローン本体に業者のロゴを付けて販売したり、取扱説明書等に会社名等が表示されている場合には、製造、加工、輸入を行っていなかったとしても製造物責任の主体となりうることになります。
③製造物の製造、加工、輸入又は販売に係る形態その他の事情からみて、製造物にその実質的な製造業者と認めることができる氏名等の表示をした者(3号)
→②に該当しない場合であっても、その他の事情によって実質的な製造業者と認められる場合には責任主体となります。
例えば、ドローンの製造自体は行っていないとしても、製造段階から指示を与え、販売を一手に行っているような販売者は、この規定により責任主体になりうることになります。
●「欠陥」とは
「欠陥」とは、「製造物が通常有すべき安全性を欠いていること」を言います。
製造物責任法では、当該製造物の特性、通常予見される仕様形態、製造業者等が当該製造物を引き渡した時期、その他当該製造物に係る事情を考慮要素として、欠陥があったかどうかを判断します(製造物責任法2条2項)。
欠陥には、次の3つの類型があると考えられています。
①設計上の欠陥
製造物の設計段階で十分安全性に配慮しなかったため、製造物が安全性に欠ける結果となった場合です。
ドローンを通常の方法で使用していたにもかかわらず、そのドローンが通常の使用にも耐えられない設計であったがために墜落した場合などには、この設計上の欠陥が認められることになります。
②製造上の欠陥
製造物が設計・仕様通りに作られず、安全性を欠く場合を言います。
問題となった製品が、意図された設計・仕様から逸脱して作られたかどうかという点がキモになります。
例えば、市販されているドローンについて、設計から逸脱した不良品が生じた場合などがこれに当たります。
③指示・警告上の欠陥
有効性や効能との関係上、除却可能な危険性が製造物に存在する場合に、その危険性の現実化及び事故の発生を消費者が防止・回避するために必要な情報を製造業者が与えなかった場合を言います。
例えば、取扱説明書により事故の危険性を警告したり、飛行を行う前に通信機器やバッテリーの状況、周辺の環境、天候等の確認すべき事項を列挙したり、正しい使用方法を指示したりする必要があります。
●無過失責任
製造物責任法においては、損害賠償請求を行う者(被害者)が、「欠陥」を主張・立証しさえすれば、当該「欠陥」が生じたことについての「製造業者等」の過失を主張・立証せずとも、損害賠償責任が認められることとなります。
被害者は製造過程の詳細等について知らないため、どのように製品に欠陥が生じたのかはわからないことが通常ですので、欠陥が生じたことについての過失を主張立証していくことは現実的に困難です。このような観点から、被害者が損害賠償請求を行う際に、立証責任の負担を軽減することを狙ったのがこの無過失責任の定めです。
● ドローンビジネス
さまざまな業種において、ドローンが活用され、また、活用が検討されています。以下では、ドローンがビジネスに用いられる例を見ていきます。
⑴ ドローンによる配達・配送
ドローンを使えば、道路の混雑に影響を受けず、自動車よりも高速度で、しかも上空を最短距離で目的地まで商品を届けることができます。
そこで、配達業者やネット通販業者が、商品の配送にドローンを活用する計画を立てています。
例えばネット通販大手のアマゾン(Amazon)は、アマゾンプライムエア(Amazon Prime Air)と名付けていくつかの国や地域で、ドローンの配送テストを行っています。
現在の航空法の規制のもとでドローンによる配達・配送を行おうとする場合、上述した飛行方法や人口集中地区での飛行の規制が問題となり、国土交通大臣による許可・承認が必要となるわけですが、最も難しい問題が、上述した他人の土地の上空を飛行するという点であると考えられています。
すなわち、ドローンで配達・配送を行う場合、特に人口集中地区においては、目的の住宅に向かうまでに他人の土地の上空を飛行することとなりますが、これが、飛行機やヘリコプターと同様に、ある程度の高度には土地所有権は及ばないと考えてよいのか、また、所有権侵害を主張するのは権利濫用として禁じられる、という解釈が可能か、という問題です。
飛行機やヘリコプターに近い高高度の飛行を要求すればするほど、高スペックのドローンが必要となり、参入障壁は高まります。また、墜落したときの危険も大きくなります。
他方で低空をドローンがせわしく飛び回る光景を社会が簡単に受容するとも思われません。
結局、こうしたことのコンセンサスをひとつひとつ積み重ねつつ、法的課題について整理していくほかない状況であると言えます。
⑵ 農業とドローン
農業においては、ドローンの活用は比較的進んでいます。
農地上でドローンを飛行させる場合には、墜落や他の物件との衝突の危険性への考慮が比較的少なくとも問題はないことなどから、他分野よりも比較的導入しやすい分野なのだと思われます。
農林水産省は、ロボット、AI、IoT、ビッグデータ等の先端技術を活用したいわゆるスマート農業の促進を図っており、ドローンも「スマート農機」の一つとして普及拡大が図られています。
ドローンの活用方法としては、
・農薬、肥料の空中散布
・受粉作業
・ドローンの空撮により撮影した圃場や農作物の画像をAIで分析、生育状況を診断し、異常箇所を検知するなどして作物を効果的に生育管理することに役立てる
など、さまざまな活用方法が考案され、実際に導入されています。
● おわりに
以上に見てきました通り、ドローンは極めて汎用性が高いものと言え、現在はまだそこまで身近なものとは言えないかもしれませんが、例えばパソコンやスマートフォンがそうであったように、わずか数年のうちに急速に普及し、我々の日常になくてはならないものとなる可能性を秘めているものと思われます。
他方で、急速に普及していくからこそ、法改正が頻繁に行われたり、法改正が追いついていない部分がでてきたりすることが予想でき、そのような事態にこそ、私たち弁護士のリサーチ力、法的解釈力などで、お役に立てる場面がでてくると思います。
当事務所では、こうした先端技術を用いたビジネスプランについて法的課題を踏まえた的確なアドバイスができるよう研鑽を積みたいと考えております。
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