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労働

労働とは、私たちにとって、生活のためのお金を稼ぐ手段(生活の糧・苦しみとしての労働)であると同時に、社会と接点を持ち、自己を実現していくための手段(自己実現の機会・喜びとしての労働)でもあります。

労働をめぐる諸問題は、こうした労働の持つ二つの側面が密接に絡み合って生じるものであり、一人一人の人生において、その時々の立場(経営者、労働者、管理職、役員等)や仕事の内容によって、年齢によって、労働の持つ二つの側面のうちどちらが強調されるのかは刻々と変化していきます。
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そこでは、単に、法律を適用すればこうなりますよ、といった単純なアドバイスではなく、一人一人の人生において、労働というものをどう位置付けていくか、ということを踏まえて考えなければ、無味乾燥な助言となってしまいます。

当事務所では、おひとりおひとりのご意向、お考えを丁寧にお聴きした上で、最適なアドバイスができるよう努めております。

労働をめぐるご相談で件数の多いものとして、不当解雇、セクハラ・パワハラ、うつ病等精神的な疾病による休職、残業代の未払い、労働災害(労災)が挙げられます。

以下では、これらの事案についてご説明致します(以下の記載にあたっては、「労働法」第7版 水町勇一郎著 有斐閣 の記述を参考にさせて頂いております)。




(1) 法令による制限

法令によって、一定の理由による解雇が禁止されています。
 ①国籍・信条・社会的身分を理由とした解雇(労働基準法3条)
 ②組合所属または正当な組合活動等を理由とした解雇(労働基準法7条)
 ③性別を理由とした解雇(雇用機会均等法6条)
 ④女性の婚姻・妊娠・出産等を理由とする解雇(雇用機会均等法9条)
 ⑤育児・介護休業等の申し出・取得を理由とする解雇(育児介護休業法10条、16条)
 ⑥裁判員の職務を行うための休暇を取得したことを理由とする解雇(裁判員法100条)
 ⑦裁量労働制を拒否したことを理由とする解雇(労働基準法38条の4第1項6号)
 ⑧労働基準監督署に法違反を申告したことを理由とする解雇(労働基準法104条2項)
 ⑨個別労働紛争解決促進法上の助言・指導やあっせんを申請したことを理由とする解雇(同法4条3項、5条2項)
 ⑩公益通報者保護法上の公益通報をしたことを理由とする解雇(同法3条)
 ⑪労働者が均等法上の紛争解決の援助や調停を申請したことを理由とする解雇(同法17条2項、18条2項)
 ⑫労働者派遣法違反の事実を申告したことを理由とする解雇(同法49条の3第2項)
 ⑬パートタイム労働法上の紛争解決の援助や調停を申請したことを理由とする解雇(同法24条2項、25条2項)
 ⑭障害者雇用促進法上の紛争解決の援助を求めたことを理由とする解雇(同法74条の6第2項、74条の7 第2項)
 などがあります。


(2) 就業規則による制限

就業規則には、解雇事由を定めた規定が置かれていることが一般的です。
裁判例では、就業規則に書かれた解雇事由は限定列挙と解釈されることが多く、この場合、解雇事由に該当する事実があることを使用者側が主張立証しなければなりません。


(3) 解雇権濫用法理による規制

判例およびそれを明文化したものである労働契約法16条によりますと、解雇は、①客観的に合理的な理由を欠き(客観的合理性)、②社会通念上相当であると認められない場合(社会的相当性)、には権利の濫用として無効とされます。
  
解雇の合理的理由として一般的に、
(a)労働者の労働能力や適格性の低下・喪失(たとえば、私的な事故による労働能力の喪失)
(b)労働者の義務違反や規律違反行為(たとえば、遅刻早退・無断欠勤等を繰り返して企業秩序を乱した)
(c)経営上の必要性(たとえば、経営難で人員整理もやむを得ない)、という3つの場合に分けられます。

解雇について、客観的合理性が認められたとしても、さらに社会的相当性が認められなければならず、この点で、裁判所は、容易には解雇の社会的相当性を認めず、労働者側に有利な諸事情を考慮したり、解雇以外の手段による対処を求めたりすることが多いと言えます。


(4) 解雇が無効となったらどうなるか

権利の濫用として解雇が無効となった場合、労働者は、労働契約上の権利を有する地位にあることが確認されます。

この場合、解雇期間中の賃金請求権は消滅しないため、労働者は解雇無効期間中の賃金の支払いを請求できるとされるのが一般的です。

さらに、労働者が違法な解雇によって賃金以外にも損害(精神的損害など)を受けたことを立証できれば、不法行為として慰謝料等の損害賠償を請求できます。

なお、解雇の効力は争わず、不法行為として損害賠償請求のみを行う場合もあります。この場合、労働契約は終了したものとして取り扱われるため賃金請求権自体は認められませんが、違法解雇によって生じた賃金相当額の経済的損害(逸失利益)や精神的損害(慰謝料)の賠償が認められます。



セクハラの定義
「セクシャル・ハラスメント」とは、相手の意に反する不快な性的言動のことを言います。

セクシャル・ハラスメントは、①性的要求を拒否したことなどを理由として雇用上不利益な決定を行う「対価型ハラスメント」と、②性的な嫌がらせにより職場環境を悪化させる「環境型ハラスメント」の2類型に分かれるとされます。

セクハラの具体例としては、上司である地位を利用して性的関係を迫る、相手の自由な意思に基づく同意なく性行為に及ぶ、相手の意に反して身体を触る、卑猥な言葉をかける、交際関係を持ちかけてつきまとう、異性関係のうわさを流して職場に居づらくする、などがあります。


(1) 事業主のハラスメント防止措置義務

男女雇用機会均等法は、性的な言動に対する対応により労働者が労働条件上不利益を受けたり、就業環境が害されたりすることがないよう、事業主に雇用管理上必要な措置を講じる義務を課しています(同法11条)。

その具体的内容として、
①セクシャル・ハラスメントに関する方針を明確にし従業員に対し周知・啓発を図ること、 
②相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備を図ること
③セクハラが発生した場合に迅速で適切な対応をとること
などが定められています。

これに沿って十分な防止措置をとっているかどうかは、後述する使用者責任や配慮義務違反の判断において考慮されるべき事実となります。


(2) セクハラの加害者自身の責任

セクハラは、被害者の人格的利益や「働きやすい職場環境の中で働く利益」を侵害する行為として不法行為にあたりますから、損害賠償請求の対象となり得ます。


(3) 事業主の使用者責任

使用者は、その従業員が行ったセクハラが不法行為にあたる場合、使用者として被害者に損害賠償責任を負うことがあります。

使用者責任は、当該行為が「事業の執行について」なされるときに成立します(業務関連性)。この業務関連性の有無は、行為の場所・時間、加害者の言動等の職務関連性、加害者と被害者の関係などを考慮して判断されます。

使用者は、加害者たる従業員の選任監督につき注意を尽くしたと認められる場合には、使用者責任を免れうるのですが、判例は、この免責事由を厳格に解釈しており、使用者が免責される可能性は少ないと言えます。


(4) 事業主の配慮義務違反に基づく責任

使用者は、労働者に対して「働きやすい良好な職場環境を維持する義務」(職場環境配慮義務)を労働契約上の付随義務(信義則上の義務)または不法行為法上の注意義務として負っており、これに違反した場合には債務不履行又は不法行為として、被害者に対し損害賠償責任を負うとされます。

裁判例では、セクハラの発生を予見できたにもかかわらず、十分な予防措置を取らなかった場合、上司によるセクハラにもかかわらず誤って個人的なトラブルと捉えて被害者を解雇した場合、加害者である上司らからの報告のみで判断して十分な調査をせず被害者を加害者のもとで引き続き勤務させていた場合などで使用者の職場環境配慮義務違反が肯定されています。



パワハラの定義
「パワー・ハラスメント」とは、職務上の地位・権限を利用したいじめ・嫌がらせのことを言います。

パワハラの具体例としては、上司や同僚がいじめ・嫌がらせに当たる言動を繰り返す、上司が部下に暴行を働いたり暴言を吐く、上司が部下に名誉感情を傷つけるような侮辱的なメールを送る、上司が感情的になって部下を大きな声で叱責する、などが挙げられます。

その言動が業務上の指導に関わるものである場合には、業務上の必要性に基づくものであったか、業務上の必要性に基づくものであったとしても相手方の人格に配慮しそれを必要以上に抑圧するものでなかったかという観点から、社会通念上許容される範囲内の指導か、それを超える違法な言動かが判断されることになります。


(1) パワハラの加害者自身の責任

パワハラは、被害者の人格的利益や「働きやすい職場環境の中で働く利益」を侵害する行為として不法行為にあたりますから、損害賠償請求の対象となり得ます。


(2) 事業主の使用者責任

使用者は、その従業員が行ったパワハラが不法行為にあたる場合、使用者として被害者に損害賠償責任を負うことがあります。

使用者責任は、当該行為が「事業の執行について」なされるときに成立します(業務関連性)。この業務関連性の有無は、行為の場所・時間、加害者の言動等の職務関連性、加害者と被害者の関係などを考慮して判断されます。

使用者は、加害者たる従業員の選任監督につき注意を尽くしたと認められる場合には、使用者責任を免れうるのですが、判例は、この免責事由を厳格に解釈しており、使用者が免責される可能性は少ないと言えます。


(3) 事業主の配慮義務違反に基づく責任

使用者は、労働者に対して「働きやすい良好な職場環境を維持する義務」(職場環境配慮義務)を労働契約上の付随義務(信義則上の義務)または不法行為法上の注意義務として負っており、これに違反した場合には債務不履行又は不法行為として、被害者に対し損害賠償責任を負うとされます。

裁判例では、上司がいじめ・嫌がらせにあたる言動を繰り返した場合、許容範囲を超える執拗な退職勧奨や嫌がらせにより退職を強要した場合、上司や同僚による執拗・悪質ないじめ・嫌がらせにより被害者が自殺するに至った場合などで、使用者の職場環境配慮義務違反安全配慮義務違反が肯定されています。



残業代(割増賃金請求)を労働者が使用者に対して請求する場合、以下の事実を立証する必要があります。

①雇用契約の締結
②雇用契約中の時間外労働に関する合意の内容
③請求に対応する期間の時間外の労務の提供(いわゆる「ノーワーク・ノーペイ」の原則から賃金請求権は労働義務の履行が現実になされた場合にのみ発生する)

①雇用契約の締結の事実として、賃金額や労働時間についての合意内容を立証しなければなりません。

賃金額の合意とは、具体的には、年俸制、月給制、日給制、時給制、賃金総額やその内訳などです。

労働時間の合意とは、具体的には、始業・終業時刻、休憩時間、所定労働時間、所定休日(所定労働日数)の日数・内容(法定休日との関係、有給休暇であるかどうか)などです。

これらの事実は、基本的には、雇用契約書や就業規則などから立証することになります。

②時間外労働に関する合意の内容について、たとえば、雇用契約で、1日7時間半を超える労働についても割増賃金を支払うなどの合意があれば、それを立証することになります。
ただし、こうした合意がなくとも、労働基準法37条に定める基準により割増賃金を請求することができます。

③「請求に対応する期間の時間外の労務の提供」として、具体的な労働日、始業・終業時刻、所定時間内外労働時間、深夜労働時間、休日労働時間を特定する必要があります。
残業代を請求するにあたっては、この作業がもっとも重要で、タイムカードで立証できる場合はよいのですが、そういったものがない場合、メモや日記、会社の出退勤記録、使用しているパソコンの記録など、様々なものを使って、具体的な労働時間を特定します。



休職とは、労働者に就労させることが適切でない場合に、労働契約を存続させつつ労働義務を一時消滅させることをいいます。

休職には、傷病休職、事故欠勤休職、起訴休職、出向休職、自己都合休職、組合専従休職などがあります。

休職制度は、一般に労働協約や就業規則などに定められ、それに基づいて使用者が一方的に発令することが多いといえます。

ただし、会社側の都合や会社の帰責事由によって休職する場合には、労働者は賃金請求権を失いません。

傷病休職や事故欠勤休職の場合、休職期間満了の時点で休職事由が消滅していないときには、解雇がなされ、または、労働契約の自動終了(自動退職)という効果が発生するものとされることがあります。

裁判例によると、休職期間満了時に従前の職務を支障なく行える状態にまでは回復していなくとも、①相当期間内に治癒することが見込まれ、かつ、②当人に適切なより軽い作業が現に存在するときには、使用者は労働者を病気が治癒するまでの間その業務に配置すべき信義則上の義務を負い、労働期間の終了(解雇または自動退職)の効果は発生しないと解釈されています。

近年、職務による心理的ストレス、職場での人間関係等が原因で精神に不調をきたし、うつ病などになってしまうケースが増加し、社会問題化しています。

こうしたケースで、療養期間が長くなった場合に解雇や自動退職といった扱いがなされることがあり、そうした扱いに納得できない労働者との間で紛争が生じています。

最近の裁判例として、

・うつ病で休業していた教員に回復可能性があるにもかかわらず主治医に問い合わせることなく行った解雇を権利濫用として無効としたもの(J学園事件・東京地裁平成22年3月24日判決)
・ストレス反応性不安障害で休職している労働者について、病状が回復しているとは思われず復職すると症状が増悪する可能性が極めて高いとの産業医の意見を踏まえて行った休職期間満了退職扱いを信義則に反するものとはいえず有効としたもの(日本通運事件・東京地裁平成23年2月25日判決)

などがあります。



労災保険制度の概要 
労災保険制度は、労働者を使用するすべての事業主に強制的に適用されます。
また、中小事業主、一人親方、特定作業従事者、海外派遣者など「労働者」以外の一定の者についても任意的に加入を認める特別加入制度が設けられています(労災保険法33条以下)。
 
労災保険の保険料は、賃金総額に保険料率を乗じた額とされ、保険料率は、事業の種類ごとに、過去3年間の災害率などを考慮して8.8%から0.25%の間(2018年4月改定)で定められています。

労働災害が発生した場合、被災した労働者又はその遺族が、労働基準監督署長に保険給付の申請を行い、これに対し労働基準監督署長が支給・不支給を決定します。

事業主が法定の手続や保険料の納付を怠っている場合でも、労働災害が発生すれば労働者は保険給付を受けることができます。

労災保険は、事業者に過失がなくとも支払われ、また、労働者の過失による過失相殺も行われません。ただし、労働者の故意または重過失により発生した災害については、保険給付を行わないことができるとされています(労災保険法12条の2の2)。


(1) 保険給付の内容

傷病や死亡が「業務災害」または「通勤災害」に該当すると認められる場合に、以下のような保険給付の支給が決定されます。

①傷病療養補償給付
②休業補償給付
③障害補償給付
④遺族補償給付
⑤傷病補償年金
⑥介護補償給付
⑦葬祭給付


(2) 「業務災害」の認定

業務災害とは、「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」と定義されています。
 ここで、判断のポイントとなるのは、「業務上の」災害といえるかどうか、という点です。
これは、「業務遂行性」(「業務」といえるか)と、「業務起因性」(業務「上の」災害といえるかの2点から判断されます。


(3) 「業務遂行性」

実労働時間中に起こった災害はもとより、宴会や運動会といった、参加が事実上強制されている場合に起こった災害でも業務遂行性が認められます。
また事業場外労働や出張中の災害で、移動中や宿泊中など職務を遂行していない時間であっても、業務上の都合からそのような状態に置かれているのであれば業務遂行性が認められます。


(4)「業務起因性」(過労死について)

いわゆる過労死(長時間の業務等による脳・心臓疾患)の場合、業務起因性、つまり業務「上の」疾病なのか、ということの判断が問題となります。

脳・心臓疾患は、高血圧や動脈硬化など基礎疾患を持つ労働者に発症することが多いため、業務(過労)に起因して発症したのか、基礎疾患に起因して発症したのかが問題となることが多いからです。

この点、判例では、たとえ基礎疾患があったとしても、業務による過重な負荷が、労働者の基礎疾患をその自然の経過を超えて増悪させ、発症に至ったと認められるときには、業務起因性の存在を肯定できるとしています(東京海上横浜支店事件・最高裁平成12年7月17日判決)。

労働基準監督署の判断基準においては、発症に近い時期の過重負荷のほか長時間にわたる疲労の蓄積も考慮され、発症前1か月間に長時間労働が100時間を超える、または、発症前2~6か月間に時間外労働が1か月当たり80時間を超える場合、業務と発症の関連性が強い、などとされます。


(5)「業務起因性」(うつ病など精神疾患について)

近年、業務による心理的なストレスや職場での人間関係により、うつ病などの精神疾患を発症し、さらには自殺にまで至ってしまうケースもあり、社会問題化していることはご承知の通りです。

精神障害が業務に起因したものであるかどうかについて、労働基準監督署の判断基準では、①対象疾病(精神障害)を発病し、②発病前おおむね6か月間に業務による強い心理的負荷が認められ、③業務以外の心理的負荷及び個体側要因により発病したとは認められない、という3つの要件を満たした場合に、労働災害にあたるとされています。

業務に起因して精神障害が発症したと認められ、精神障害を発症する中で労働者が自殺した場合には、精神障害と自殺との間にも一般に因果関係が認められます。

業務を原因としてうつ病等が発症した場合には、その病態として自殺行為が出現する蓋然性が高いと医学的に認められていることから、労働者の故意により発症した災害とはされず、自殺という結果についても一般に業務起因性があると考えられているのです。



労災保険制度による給付は、精神的損害(慰謝料)をカバーするものではなく、給付額についても現実の損害の大きさに関わらず定型的に定められているものですので、労働者が被った損害のすべてを保証するものではありません。
また、そもそも労災保険の給付の対象とならない災害であっても、民法上の損害賠償請求が認められることがあります。

従って、①労災給付が支給されたものの、その金額ではすべての損害が填補されていないと考えられる場合、②労災給付の支給が認められなかった場合、には、使用者への損害賠償請求が可能か否かを検討する必要があります。


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